世界的なパンデミックの発生後、人々の行動や価値観は大きく変化しました。これを受け、金融機関はこれまで以上のスピードでDXを進めて行かなくてはなりません。「nCino Summit Japan 2021」では、パートナーの1社セールスフォース・ドットコムから田村英則氏が登壇し、日本の金融機関が実現するべきデジタルバンキングの仕組みを提案しました。
株式会社セールスフォース・ドットコム 常務執行役員 エンタープライズ金融&地域DX営業統括本部長 田村英則氏
■Salesforce Customer 360が目指すビジョン
新興勢力との競争が激化する中、金融機関の競争力強化の鍵となるのは、変化を続ける顧客の期待に応え、一人ひとりに最適な顧客体験をスピーディーに提供できる仕組みを整えることです。Salesforceは「信頼」「カスタマーサクセス」「イノベーション」「平等」の4つをコアバリューとして据え、顧客やパートナーを含む様々なステークホルダーと共にビジネスを進めています。
現在のSalesforceの製品ビジョンであり、同時にその製品体系を表現しているのが「Customer 360」になります。図1では、左側の“円”の中心にいるのが顧客。そして、その周りを「セールス」「サービス」「マーケティング」などのアプリケーション群が取り囲んでいます。さらに隣の枠に描かれている「プラットフォーム」は要素技術であり、各アプリケーションで顧客の行動を統合的に把握することを助けるものです。
Salesforceは営業支援やコンタクトセンター支援の製品提供で成長してきた会社ですが、ここ数年は多くの企業買収を経て「Customer 360」を実現する統合を進めてきました。その代表例がAPI主導のシステムインテグレーションを支援するMuleSoft、データ分析プラットフォームのTableauです。田村氏は「この全体で、金融機関から見てお客様を統合的に見る仕組みが整う」と語りました。
ここまで業務機能ごとのアプリケーションをクラウドで提供してきたSalesforceですが、近年は業種特有のニーズに対応する製品の提供を始めています。そのうちの一つが金融サービス業向けに提供しているSalesforce Financial Services Cloudです。この製品はSalesforce Sales CloudとSalesforce Service Cloudをベースに、金融サービス業界特有のデータモデルを実装し、組織の競争力を高めるために利用できるようにしたものです。
田村氏はFinancial Services Cloudの特徴として、様々な顧客接点を統合できることを挙げます。金融機関の顧客接点は店舗だけではありません。Webやモバイルアプリもあります。しかし、これらの裏側を支えるシステムがバラバラでは、一貫性のあるサービスを提供することは難しい。そこで統合が必要になるわけですが、その負荷は大きく、変化への適応を阻害することが問題として指摘されています。これに対して、Salesforceはあらゆる顧客接点を通したやり取りを仕組みとして提供する統合基盤を提供しているため、銀行の基幹システムである勘定系との連携をシームレスに実現することも可能です。
利用を通じて徐々に顧客を正確に把握するデータが貯まってきます。データが多ければ多いほど、AIの力を借りて、Salesforceからより顧客エンゲージメントの向上に寄与する示唆が得られるようになります。図1で顧客の隣にEinstein AIがあるのは、SalesforceのAIは顧客をより理解するためのものであることを示しています。
■金融機関の強みを引き出すSalesforce Financial Services Cloud
Financial Services Cloudは銀行が必要とする様々な機能を提供していますが、日本の導入銀行から特に高い評価を得ているのが、「世帯管理&リレーション」です(図2)。新規顧客は、友人や知人からの紹介で契約に至ることが多いものです。この機能では、顧客の家族構成に加え、誰からの紹介で顧客になったのかがわかる紹介者の情報を管理しています。また、顧客に最適な金融商品を提案するには入学や結婚、出産などのライフイベント情報を把握しておくことも必要です。「ライフイベント&ビジネスマイルストン」はそのための機能で、家族構成と合わせて一家全員のライフイベントを可視化し、顧客を統合的に理解できるようにしています。
また、銀行の組織はリテールとホールセールに分かれているケースが多いですが、Financial Services Cloudは「お客様を法人と個人の法個一体で捉えて見ることもできる」と田村氏は補足します。例えば、ある顧客がどこかの会社の役員だとすると、会社情報と紐付けて管理します。このように360度で顧客を理解し、スムースなコミュニケーションを続けながらクロスセルやアップセルにつなげてもらうための仕組みをFinancial Services Cloudは提供しています。
Financial Services Cloudに限らず、Salesforceではユーザーからのフィードバックも踏まえて、毎年3回製品のバージョンアップを実施しています。現時点で欲しいと思う機能がなくても、自社で開発する必要はありません。「システムとしての機能拡張やアップデートはSalesforceに任せていただき、金融機関はビジネスに専念することでスピーディーに環境変化に追随することができる」と田村氏は説明しました。
■融資プロセスにおける顧客とのやり取りをエンドツーエンドで管理
とはいえ、Salesforceが何もかも提供しようとしているわけではありません。Financial Services Cloudだけで提供できない機能については、パートナーのソリューションで拡張、補完するのがSalesforceの戦略です。日本でも金融サービス業に特化したパートナー各社がソリューションを提供しており、そのうちの1社がnCinoになります。
実は、この戦略を可能としているのがSalesforceのプラットフォームです。nCinoはSalesforceのプラットフォームで開発された製品であり、Salesforce製品や他のFintech製品と連携させてビジネスを成長させていくことができます。「nCinoはSalesforceにとって融資業務を円滑にするためのグローバルパートナー」と田村氏は語り、この分野への投資が日本の銀行にとってもプラスになると訴えます。
日本の銀行が顧客体験の質を高めていく上で最も重要であり、今後のチャレンジになるのが「お客様ファースト」の仕組みを整備することでしょう。これはすなわち融資業務のプロセスに関わる全ての部門の連携がスムースにできるかということに他なりません。加えて、これからのニューノーマル時代には、行員がどこにいても店舗にいる時と同様の対応ができることが求められます。その意味で日本の銀行はSaaSの採用に積極的に取り組んでいくべきです。田村氏は、「DXの観点からもSalesforceとnCinoは効果を発揮する組合せ」と述べ、それぞれの顧客に最適なサービスをリアルタイムに提供することが、銀行にとっての収益機会の拡大につながることを強調しました。
SalesforceがnCinoとどのように銀行の融資プロセスを支援するかを整理したのが図3です。2つを併せて使うことで、法人向け融資及び個人向け融資の業務を申込みから審査、実行まで一気通貫の顧客体験を提供することができます。
Salesforce上では融資案件の進捗状況を包括的に管理することができ、、行員はもちろん、申込みをした顧客自身がステータスを確認することも可能です。店舗とデジタルのやり取りを別々に管理していては、顧客に適切な融資を行うことは難しい。ですが、「お客様ファースト」は1人の顧客を統合的に見られる仕組みがあってこそ実現します。Salesforceは自社のソリューションをより使いやすくしながら、nCinoと共に日本の銀行の競争力強化をサポートしていきます。