11月13日にnCinoが東京ステーションホテルで開催した「nCino Summit 2024」では、山口フィナンシャルグループからプロジェクトの中心メンバーであるDX戦略部 部長 山根丈直氏、営業戦略部 副部長 木本智二郎氏、IT統括部 主任調査役 石村僚氏、DX戦略部 主任調査役 栗原智史氏の4名のパネリストを迎え、導入の検討から現在に至るまでの経緯を語り合った。モデレーターはnCinoの渡辺幸太郎(シニア・アカウントマネージャー)が務めた。
■DX推進のきっかけになった問題意識「社員体験」
渡辺:まず、nCino採用の経緯から伺いたいと思います。
山根:これまでは営業現場一筋だったので、就任直後は「DXとは何か?」と考え抜いたつもりです。営業時代の経験から、システムの使い勝手に問題意識を持っていて、DXへの挑戦で最初に着目したのが社員体験を変えることでした。社員体験が変われば、顧客体験も変わる。実際、当時のIT担当役員2人と「nSight 2023」に参加して、最も印象的だったのが「社員体験を変えよう」という言葉です。私自身の問題意識との一致が検討のきっかけになりました。
渡辺:山根さんと共に検討を進めてこられた栗原さんからも意見を聞きたいです。
栗原:初めて話を聞いた時、すでに山根はエンジン全開でしたが、一緒にnSightに参加した役員も負けず劣らずで、2人の思いを汲んで企画を成り立たせなければと奮い立ちました。最初の導入スコープに選んだのは住宅ローンとなりましたが、規模や責任の重さを考えると、相当の覚悟がないとできないことですし、その決断ができた金融機関になれたことがうれしい。振り返ってそう思います。
渡辺:5月のnSight 2023参加後、9月にはnCino採用を決定しています。検討時に評価したポイントはどんなことでしたか。
木本:従来の住宅ローンのプロセスでは、不動産会社やハウスメーカーなどの事業者様から申込書を得た後、社員によるシステムへの必要事項の入力が必要です。その内容を行内審査に回すのですが、結果を稟議の別システムに再入力する必要があります。書類は平均20種類ぐらいあり、その全部を手作業で処理しなくてはなりません。この手間をなんとかしたいと考えました。もう1つ、申込みのほとんどが事業者様経由です。社員の事務負担を減らすだけでなく、事業者様側の負担も減るような仕組みを採用すれば、お客様だけでなく、事業者様との対話の時間を増やせる。やらなければと、思いました。
渡辺:IT部門から当時を振り返っていかがでしたか。
石村:驚いたのが、受付から実行に至る融資の一連の機能が備わっていたことです。IT資産の合理化や適正化は進めているものの、金融機関向けのアプリケーションは、特定の業務に特化したものがほとんどで、アプリケーション連携が不可欠です。nCinoは必要な機能が全て揃っていて、その必要がない。業務改革を進める上で採用の決め手になったと思います。
■導入プロジェクトを通して大きく成長した現場の若手
渡辺:業務にシステムを合わせる「Fit to Standard」については、どう考えましたか。
石村:ハードウェア調達から始まるオンプレミスシステムの構築の場合、長期間の利用が前提になります。昨今の金融機関を取り巻く環境変化の速さを考えると、長期的な展望を描きにくいと感じており、クラウドのサービスの活用と標準化へ合わせるという業務改革は魅力的でした。
渡辺:私たちも常に将来を見据え、機能アップデートに取り組むつもりです。検討段階では、何度もデモを見てもらいました。その印象はいかがでしたか。
栗原:私は主に営業現場の人たちの反応を観察していました。現場をよく知る人ほど、反応が良かったのとは対照的に、本部の人たちは「ふーん」という反応でしたね。これまでのシステム企画の起点は、ハードウェアの更改のタイミングで、現場が喜ぶシステムを提供する意識は二の次になっていたかもしれません。現場の人たちが今までは言えなかった要望を形にして見せてくれたことが、「やるしかない」という空気を作ったように思います。
渡辺:プロジェクトを立ち上げるときに重視したポイントについて教えて下さい。
木本:部署同士の対話が必要になるため、できるだけ多くの部署からメンバーを集めることを重視しました。共通の目標として掲げたのが「Fit to Standard」です。現在の業務にシステムを合わせるのではなく、私たちがシステムに合わせて業務を変えることを前提に進めようという意味が込められています。元に戻してほしいと言われても、「Fit to Standard」を言い続けています。
栗原:1つ追加すると、若手をプロジェクトメンバーに多く入れました。当初は不安を覗かせていた若手の1人も、最近は目の色を変えて頑張っています。大規模プロジェクトは、若手が成長する良いチャンスだと思いますね。
木本:まもなく稼働開始ですが、私の部署からプロジェクトに参加した若手2人は、グループ3行の役員向けプレゼンで堂々と説明するまでに成長しました。
渡辺:人数が多いプロジェクトになりました。コミュニケーションで留意したことはありますか。
木本:多くの部署からメンバーを集めると、あちこちから反対意見やネガティブ発言が出てきます。一度は受け止め、そこから我慢強く、納得してもらう方向に持っていくことを心がけたつもりです。また、プロジェクトには幅広い年齢層のメンバーが集まっているので、遠慮してもらいたくない。メンバー同士が発言しやすいようなコミュニケーションを意識しました。
■次は無担保ローン、その先の法人融資も視野に
渡辺:まもなく本番稼働を控えています。プロジェクト中に得た気づきや学びを今後にどう活かすのか、最後に聞かせて下さい。
山根:住宅ローンからやると決定し、パートナーのアクセンチュア様と共に、要件定義から導入を進めてきました。プロジェクトでは、時には意見の合わない局面もあったものの、お互いに言いたいことの言い合える関係を作ったことで、無事に本番稼働まで漕ぎ着けることができたと思います。次のステップは無担保ローンを考えていて、それが成功したらいよいよ本丸の法人向け事業融資に挑戦するつもりです。そこからが業務改革のスタートだと考えています。
木本:若手が活き活きと取り組めたことは、今後に向けての財産と考えています。若い人の意見を聞くことは、お客様の意見を聞くことでもあるからです。また、業務でnCinoを使う人たちの意見も聞いて、進めてきました。その人たちも活き活きしています。行動を変えるには、私たち1人ひとりが考え方を変えなければならない。次のステップも、同じスタンスで臨みたいと思います。
また、新システムは社員だけが使うものではありません。事業者様への訪問では、「事業者様主導のWeb申込みができる」と説明しています。その時、必ず「社員と対話する機会がなくなるのか?」と聞かれますが、「事務効率が上がる分、今までよりも皆様との対話の時間が増える」と説明し、賛同を得ました。書類を受け付けて処理するだけではなく、家づくりのパートナーとして選ばれる存在になりたいですね。
栗原:私が「nSight 2024」に参加しての最も大きな収穫は、「地銀でも都銀レベルのシステムを持てる」とわかったことです。今までは都銀ほどの投資はできないと考えていたのですが、SaaSをうまく使えば、ワールドクラスの仕組みを社員に提供できる。参加したことで、業務改革を成功させたいという思いが一層強くなりました。
石村:私も「nSight 2024」に参加し、AIといった、nCinoが常に最新のテクノロジーを提供できることに感銘を受けました。また、海外の金融機関の担当者と対話する機会を得て、彼らが私たちと同じように、顧客体験の向上、事務効率の向上のような課題を抱えているとわかったことが収穫でした。本番稼働後は、このシステムを使ってもらうことに尽力したいと思います。